達人に会う(14)

1週間の講習会の期間中、
私は八王子のいとこの住居に泊めて貰っていた。
そこから電車に乗って会場の体育館まで行くが、
ある時、新宿駅
蘇老師と息子さんにばったり出会った。
電車を待って乗り込むとき、
老師はドアの前にさっと移動し、
ドアが開くやダッと走り込み、
イスに座って息子さんにもすぐ横に坐らせた。
カメラが好きなのか、
カメラ屋さんの前を通りかかると、
展示されているカメラを食い入るように見ていた。
何というか、伝説の達人と言うよりは、
そういう姿は天真爛漫な子供のようであった。
練習の際に、できれば見せてほしいということで、
「軽身功とはどんなものですか?」
という質問が出た。すると老師は
「ケケケッ」と笑い、
「エレベーターに乗った方が早い。」
とかわされてしまった。
息子さんの威任君はまだ若く真面目な人で、
一応、息子さんにも「威任老師」と呼びかけたが、
蘇老師は、
「彼も君らと同じ修行中の身だから
「威任」と呼ぶだけでいい。」
と言われた。
当時の息子さんは、
まだ功夫があるという感じではなかったが、
動きは速く姿勢は非常に低く、
いかにも老師の英才教育を受けているという風だった。