前田さんのこと(5)

前田さんとの思い出で、何と言っても大きいのは、
父が命拾いさせてもらったことである。
約15年前、私が結婚した頃であったが、
父は直腸ガンの手術の結果が思わしくなかった。
手術そのものは成功したのだが、
何型かよくわからない肝炎になった。
GTPだとかいう数値がとんでもなく高くなり、
病院もこれといって効果の上がる治療ができていなかった。
私の結婚式には、父は病院から真っ黄色の顔で出席し、
式が終わると、また病院に戻っていった。
はかばかしくない治療状況に業を煮やした父は、
前田さんのことを思い出し、
私に前田さんのところに連れて行ってくれと頼んだ。