原型

先日の朝、
まだ暗い中を走っていて、
ようやくコースを走り終わるという所で、
ギョッとすることがあった。
住宅密集地の間の道を走っていると、
前方の道の真ん中に痩せた老婆がよろよろと歩いていて、
ピタッと止まると、じいーっと向かいの家を見ている。
どこの家もみんなまだ明かりが点いていない。
ちょうど街灯が逆光になっていて顔は見えないが、
横を走り抜けようとする私に気づいた老婆が、
くるっとこちらを向き、
すーっとこちらに動いてくる気配があったので、
私はあわてて足を速めてその場を走り去った。
ただの老人の朝の散歩かも知れないが、
失礼ながら、私には幽霊のイメージそのものであった。
日本の幽霊の原型イメージであると言われる、
円山応挙の幽霊画は宿屋の病身の女を描いてできたらしい。
街灯以外真っ暗な道で、
逆光で顔の見えない老婆が音もなく動いて来るのは、
正直やはり怖く感じた。