武術家

八極拳を習っている頃、
一度李英先生が教えて下さる機会があった。
若い頃から雑誌やビデオで見ていた達人が、
直々に教えて下さると言うことで、
感激しまた緊張していた。
初めてお会いする李英老師は、
身長は私と同じくらいだったが、
胸板や手足の分厚さは尋常ではなかった。
その日は、ナイフを持つ相手に対処する技術などを中心に、
実戦的な技を数多く教わった。
推手、槍の使い方、打撃、いずれも凄い強さを目の当たりに出来、
また私も自身の体でそれを実感させていただいた。
大変強い先輩達をも手玉に取るその功夫は圧巻であった。
練習終了後は懇親会に向かったが、
その途中で個人的なことも含めて色々お話させていただいた。
懇親会の席では、
ここでは書けないような中国武術の世界のレアな裏話を
たくさん聞くこともできた。
大変貴重で有意義な1日だったが、
最も衝撃を受けたのは、
李英老師の武術家としての気構えだった。
仕事で日本全国を飛び回りながら、
良識ある社会人として家族を支えている。
そんな多忙の中でも世界最高レベルの武術の実力を保つ。
そして、門派の名誉のためなら命も賭ける。
そんな気概をひしひしと感じることが出来た。
それを感じたとき、
武術家とはこういう人であり、
私は武術家には到底なれないと思った。
もともとファイター的性格ではなく、
努力の量も覚悟もない私は、せいぜい武術愛好家である。
それでも武術好きが高じて、
このように世界有数の達人の先生方にお会いでき、
技術を目の当たりにし、実感することも出来たのは、
とても幸せなことであると思っている。