自分探し(6)

会社に入社後、導入研修、製造実習、販売実習、
そして経理を学ぶ原価管理実習を終えて、いよいよ配属となった。
私は、輸出部に配属された。
同じ事業部の同期3人は、それぞれ国内営業、経理、購買となった。
輸出部の部長は、東大卒のエリートで、
さらに40代半ばにして部長になったという切れ者であった。
私が作った資料の、
数ヶ所の数字の間違いを一瞬にして発見、指摘されるのには驚いた。
この部長にはいろいろ教えていただいたし、
大変いい人だったのだが、
酒を飲むと、けっこう口が悪くなり、
普段言っていることと違うことを言うものだから、
「何だ、結局この人の本音はこれか…。」と思ってしまう。
その時以来、酒を飲んだときの態度も、気をつけなければならない、
と強く感じた。
当時、部長の上の役職は事業部長だったが、
ある時、事業部長と部長の間に、統括部長という役職が作られた。
その統括部長の椅子に座ることになったのが、
製造部門の部長だった、中卒のたたき上げ部長であった。
昨日まで部長同士でいわゆる「タメ口」だった相手に、
輸出部の部長は、今日から敬語を使わなければならなくなった。
実際、輸出部長は敬語で統括部長に接し、
統括部長も当然のごとく、目下口調で輸出部長に話していた。
おそらくエリートを自認していた輸出部長は、
やはりプライドが許さなかったのだろう。
かつてあちこちの職場で培った人脈を駆使して、
たちまちよその事業部へと移っていった。
こうした一連の動きを見た私は、
なるほどサラリーマンというのはこういうものなのだなあ、
と驚いたものであった。