ブラックリスト

「自分探し」で就職間もない当時のことを思い出した。
電機メーカーで、導入研修の後、製造研修になった。
これは工場で機器製造ラインに入る研修だ。
それが終わると販売店実習で、
町の電気屋さんで機器販売と、
クーラー取り付けなどの手伝いをするのだ。
ここである家庭にテレビを配達することになった。
売店の人と一緒に、一歩そのアパートの部屋に入って驚いた。
家具がほとんど無いのだ。
部屋は殺風景で、薄暗い感じだった。
出てきた奥さんとおぼしき人は、また驚くほど化粧の濃い人だった。
失礼ながら、「魔女」という言葉が頭に浮かぶ容貌であった。
また、4,5歳と思われる女の子がいて、
およそ年齢に似つかわしくないませた口をきくので、
その異様な雰囲気とともにさらに驚いた。
クレジットでテレビを買うとのことなので、
「ハンコを押してください。」と言うと、
家具がほとんど無いにもかかわらず、
奥さんは「ハンコがない、ハンコがない。」と探し回った。
そもそもテレビを届けたのは、店の常連さんの紹介だったので、
店の人は仕方なくクレジットの手続きは後日ということにして、
テレビを置いて帰ってきた。
ところが、後でわかったところでは、
テレビを届けた先は、
クレジットでブラックリストに載っている家だったのだ。
それが判明すると、店のご主人はテレビを回収に行き、
それでこの件は決着がついた。
思えば、電気屋さんというのは、
けっこう他人の家に上がることがあるので、
こうした少し変わった経験もできるのだなと思った。