気付かない(2)

今日は11月と思えない暑さで、授業では教室の窓を開けていた。
教室はビルの6階にある。
夕方6時過ぎ、ちょうど夕食時である。
よくあることだが、下にある飲食店からいいにおいがしてくる。
食欲をそそる甘い香りが漂ってくるのだ。
今日も窓を開けているので、案の定良い香りがした。
生徒さんが「いいにおいがしますね。」と言われた。
「そうなんですよ。下に鉄板焼きの店がありますからね。」
と私は答えた。
すると、生徒さんは、
「このにおい、うなぎなんじゃないですか?」と言う。
「いや、ここらへんにうなぎ屋はないですよ。」と言うと、
「あれ、そうじゃないですか?」と生徒さんが指さす方を見てやれば、
「へっ?あっ!ああ…。そうですね…。」
なんと!ビルを出てすぐ左手に、うなぎ屋があるではないか!
気付かなかった…。
「先生、ここで教室始めて5年くらいになるんですよね。」
と生徒さんに言われ、
そこからしばらく「気付かない」話に花が咲いた。
ちょっと「呆け」という不吉な言葉がちらつく夜であった。