通臂拳(3)

友人が学んでいたこの通臂拳は、
正式には五行通臂拳といい、天津にその伝承がある。
中国武術マニアの間では有名な話だが、
この流派の代表的な人物として、張策という達人がいた。
この人は、日本で言うと大正時代くらいに活躍した人で、
指先で軽く突いて、口論となった人力車夫を殺したり、
気合い一つで屋根に飛び上がったりしたという。
友人は、この張策の弟子とさらにその弟子から習ったそうだ。
私もせっかくの機会だったので、
友人からしばらくの期間、この通臂拳の基本を教わった。
新体道でかなり柔らかい動きを学んだつもりであったが、
この通臂拳は、また独特の柔らかさであった。
身体を柔らかく使うだけではなく、
その使用法、つまり戦闘技術としてどう使うのか、
ということについて説明を受けたとき、
人間心理に対する深い理解と、
そのリアルな残酷さに吐きそうになった。
人力車夫を殺した話を書いたが、
そうした殺し合いが日常の現実として存在した時代で、
実際に行われた武術の伝統が移ってきた感じがしたのだ。