「香港」

時間をおいても何度も読みたくなる本というのは、
そうあるものではない。
小説となれば、話の筋を知っているのであるから、
よほどの長編でもないと、なおさらである。
ところが短編なのに、時々読み返したくなる本がある。
私にとってそのような本は、邱永漢著「香港」である。

香港・濁水渓 (中公文庫 A 135)

香港・濁水渓 (中公文庫 A 135)

これは邱永漢さんの直木賞受賞作で、
ご自分の経験と見聞を元に書かれたものである。
政治亡命のような形で、香港に流れて来て、
絶望の中から這い上がっていく物語である。
日本の純文学系統にありがちな、
線の細い悩みを細かく書くのではなく、
絶望の中から生まれる根源的な生きるエネルギーを感じられるから、
特にこの作品が好きなのだ。
邱永漢さんは後に「お金儲けの神様」となり、
執筆と同時に実業の世界で活躍される。
そうした小説以外の著作も、大変論理的で、
なおかつ視野を開かれるので、好きでよく読むのだが、
「香港」は私の中では別格である。