達人に会う(5)

見学を経て、後日佐川道場への入門を許されたのだが、
佐川先生の技は驚くばかりで、
全く異次元のものにしか見えなかった。
当時80歳を越えたばかりだった佐川先生の合気柔術の技は、
類書に書かれているように、相手を無力化して投げるのだが、
その無力化する技術を合気といい、
少なくとも私が見たことがある合気道の技とは異なる。
手足など相手の身体の一部が佐川先生の身体に触れるやいなや、
相手は畳の上に「バシーッ!!」とすごい勢いで叩きつけられる。
佐川先生の動きはごく小さいものなのに、
さらには先生が着ておられるカーディガンの襟を掴んだだけでも、
相手は、まるで数十キロ分の濡れたぞうきんの固まりを、
渾身の力を込めて叩きつけたような勢いで、
畳の上に投げられてしまうのである。
残念ながら、私は佐川先生に投げてもらう機会はなかった。
私は日本拳法をやっていたので、
相手の突きをさばいてかける技の練習の時に、
ついボクシングのウイービングのようによけてしまった。
すると先生が、
「そういうやり方もあるけどね。」と言いながら、
相手に突かせて、ひょいと頭をずらして避け、
標的を失って突き抜けた相手の腕の肘あたりが、
先生の肩に乗ったかと思うと、
先生が肩をスッと動かしたかと思うやいなや、
相手は猛烈な勢いで畳に叩きつけられた。
先生が技を見せてくださると、
弟子は「ありがとうございました。」と言う。
先生は脇においてある椅子に座って、
また稽古をごらんになるのだが、
私はその信じられない光景を目の当たりにして、
あっけにとられてしまった